お嬢様と執事の不器用なちょっとした話
「お嬢様?」


「庵。」



次の日、纏はホテルの会議室にいた。


眺めが良く最高のロケーションだと言う張り切った捗拵の提案により、会議室に2人きりを作ってもらったのだ。



庵を案内し下がる時の頑張ってという意味が込められた捗拵のアイコンタクトへ纏もそれに答えるよう静かに交わす。



「お戻りになられる気になった……という訳では無さそうですね。」


「相変わらず察しだけは良いわね。」



庵は纏の雰囲気から何かあると感じたらしく、窺うように尋ねる。



「このホテルは素晴らしいわ。内装も食事もサービスも。さっきのコンシェルジュは特に。」


「コンシェルジュ…?確か、私が最初にこちらへ伺った時に案内していただいた方ですね。」


「記憶力も相変わらず。」



執事としては完璧だと纏はつくづく思う。


執事としては、だが。



「そのコンシェルジュにね、気付かされたの。私がどうしたいのか、どう生きてきたいのか。私の人生、私でいる為に。」


「お嬢様はお嬢様です。他の誰でもございません。」



「それはお嬢様で会社役員の私、のことでしょう。そうではなくて、錺禰纏としての私、のことよ。」
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