お嬢様と執事の不器用なちょっとした話
「お嬢様、帰りますよ。」


「帰らないわ。」



「何度も同じこと言わせないで下さい。お嬢様がいないと会社が…」


「会社なら庵がいれば十分でしょ。シェルパみたく仕事してなさいよ。」



「お嬢様を連れ戻すことも私の仕事です。」


「六次の隔たりって知ってるわよね。家や会社にいるより、ここの方が沢山の人に会えるわ。これも仕事じゃなくって?……部屋に戻るわ。」



「え?錺禰様っ?!」



纏と庵の応酬を見ているしかなかった捗拵は、雰囲気に圧倒され中庭を去る纏を追い掛けることが出来なかった。



「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。」


「あ、いえ……迷惑などでは。」



「ここ数ヶ月ほどあの調子でして。」


「え?数ヶ月もですか?」



「会社は立ち上げてから落ち着きまして、お嬢様も16歳になられて。そうしましたら旦那様が、お嬢様の婿探しを始められて。」



纏は父親の婿探しが嫌らしく、こんな家出紛いのことを続けているらしい。



「まぁ、ホテルの予約は屋敷からですし、携帯のGPSも機能しています。社員からのメールもパソコンから返してるようで、居所を掴むのは容易いのですがね。」
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