お嬢様と執事の不器用なちょっとした話
「本当に居所が掴めないと緊急事態に社員が困る事を、お嬢様は分かっておられるので。」


「周りを見てのお考えなんですね。」



「ええ。お嬢様は、頑張れば必ず成功するなどそんなに世の中甘くないと分かっておられます。しかし成功者は努力しています。運や才能も確かに大切な要素ですが、それだけではその先に続いていかない。お嬢様は努める力を持ってらっしゃいます。」



纏のことを雄弁に語る庵は誇らしげで。



「錺禰様のこと好きなんですか?」


「………………。」



「し、失礼致しました!私ったら何を…」


「いえ。…好きですよ、一緒に育ちましたから。」



早くに亡くなった母親と忙しい父親に代わり、使用人もほとんど雇えなかった時からずっと。



「何故旦那様を止めないんです?錺禰様に言わないんですか?」



纏を傷付けないよう自分が傷付かないよう、嘘が増えてゆき偽りの自分を造り上げた。



「お嬢様と私では立場が違います。」



それはいつしか一人歩きして、本物の自分は二度と出てこれなくなる。



「今の時代に立場って…」


「決してお嬢様が悪いのではなく、私がそうさせてしまったのです。」
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