お嬢様と執事の不器用なちょっとした話
「いえいえ、そんなことは。怪しい人がいないか注意しながらしてください。危ないですから。」


「分かってるわ。」



急に親のような物言いの捗拵にまた笑いが込み上げる。



「眼鏡……」


「あぁ。普段はコンタクトなんだけど、面倒な時は眼鏡なの。」


「やっぱり眼鏡って面倒なんですね。私の祖父も面倒くさいって言ってましたから。」



捗拵の祖父は老眼だったから、余計にである。



「確かに面倒だけど、視力が悪いのを嫌だと思ったことは一度だって無いわ。」



眼鏡を外した当然見える世界はぼやけて、眼鏡をかければハッキリ見える。


外しても見えないことはないけれど、日常生活は困るからかける。



「眼鏡を外した世界が好きなのよね。景色も、光も、人も。まあるく、やさあしく見える気がするから。」



視力が良い捗拵には分からないが、眼鏡を外した時に見える世界は結構綺麗だと纏は思う。



「私は眼鏡と同じかもしれないわ。私がいなくても父は困らないし、会社も引き継ぎか庵がいればいいし。不要なお飾り……、私と比べては眼鏡に失礼ね。」



夜の闇と雨の水と相まって、自嘲する纏は何だか寂しそうに見える。
< 7 / 19 >

この作品をシェア

pagetop