お嬢様と執事の不器用なちょっとした話
「会社も私に任せてれば大丈夫とか言うんだけど、会社は父や私だけではないわ。最終的に会社を構成してるのは社員よ。コンシェルジュの貴女だって、このホテルを構成してる一人なんだから。」



「確かにそうですね。蔵織様も、錺禰様はご自分の居られる場所を常に分かるようにしてると仰ってました。だから、社員の方は困らないと。」



庵の誇らしげな顔が目に浮かぶ。



「庵がそんなことを……。社員のことを考えるとね、手は抜きたくないのよ。父が捕まらない時に判断を下すのは私なんだけど、それは庵じゃ無理な時もあってね。」



自分の地位や名声があるのは、父親だけのお陰じゃないことを纏は理解している。



「こんな家出みたいなこと、子供染みてるって分かってるんだけど。庵を無理矢理引っ張って駆け落ちなんかしてみなさい。たちまち社員が困り果てるわ。」



纏と庵が居なくなれば、父親は血眼になって2人を探すだろう。


それも、怒りではなく心配で。



仕事が疎かになる……、いや寧ろ仕事一切を放り出すのは確実である。



「庵だってご両親のことがあるから私に仕えてるだけで。本当は迷惑でしょうね、こんな我が儘な私なんか。」
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