狼な彼と赤ずきん
突き放すように彼はそう言い、まるでハエでも追い払うかのように手でしっしっと私たちに「出ていけ」と合図した。


――おそらくだが、彼は根っからの悪人ではないのだろう。


意地悪で、自分勝手で、他人の気持ちが考えられなくて、乱暴だけれど。


彼は自分の負けを認めて、私を狼のもとにかえしてくれた。



「ほら、行くぞ」



狼が私に手を伸ばしてくる。


私は迷わず手をつないだ。


確かに、彼から愛しているという言葉は聞いていないけれど、私はきっと、彼にちゃんと想われている。


身を呈して私を守ってくれた事実が、そしてつないだ手の温もりが、彼の気持ちを私に伝えてくれた気がした。
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