狼な彼と赤ずきん
アドランの言ったとおり、屋敷からは簡単に抜け出すことができた。


本当に、警備をゆるくしておいてくれたのだろう。


私は一度後ろを向き、この一週間を振り返った。


常に侍女がつきっきりで、必要なことは全部彼女たちが行ってくれた。


シェフが腕をふるった美味しい料理も食べることができた。


屋敷の書斎には森の図書室なんかよりもずっとたくさんの本があったし、宝物庫にある見たこともないような宝石を身につけることも許された。



それでも、私の居場所はあの森でしかないのだと思う。
肌寒い夜空の下、狼と私は寄り添いながら歩いていった。


二人っきりで手をつないでいるという状況が気恥ずかしくて、うまく話すことができない。


それは狼の方も同じなのだろう。


空気は冷たいのに、彼の頬はうっすらと赤く色づいていた。



幸せな気分で歩みを進めていく。


ゆっくり、ゆっくりと。
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