狼な彼と赤ずきん
優しい口調で告げられた、それは私が待ち望んでいた言葉。


それなのに、いざ言われるとどうしようもなく怖くて、心臓がどくどくと脈打ち始める。


彼は今、どんな顔をしているのだろう。


抱きしめられた腕の中で身をよじって狼の表情を伺うと、彼は舌なめずりをしていた。


小さく開いた口の間から覗く、キラリと光る牙。


今更ながら、彼が猛獣なのだということを理解した。



恐怖が大波のように襲ってくる。



しかし、今さら引き返すことはできない。


私は覚悟して、体を固くした。



幼い記憶に残る、優しかった両親。


祖母との、質素だけれど満ち足りた生活。



走馬灯のように、これまでの人生が頭の中を駆け巡った。



「目を閉じろ、赤ずきん。大丈夫、一瞬で終わる」



「はい。……あの」



目を閉じてしまう前に、私は狼の姿を焼き付けるように彼を見つめた。



「さようなら、狼さん」
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