狼な彼と赤ずきん
どう答えるべきか迷っているかのように、目を逸らす狼。


私は「こっちを見て」と彼の頬に手を当て、自分の方を向かせた。



「ただ、お前を見ていると……欲情して、今みたいなことを、してしまいそうだったから。昼でも夜でも、ずっと、お前を抱きたいって、そのことしか考えられなかった。でも、こんなことをしたら、お前を傷つけてしまうと思った」



思わぬ告白に、私は目を丸くした。


彼が私を避けていたのは、私を嫌っていたからではなく、私を傷つけないため……?



「あの晩……お前に初めてキスをした晩、俺は自制心が働かなくて怖かった。衝動的にキスをして……一歩間違ったら、お前を犯していたかもしれない」


ぽつり、ぽつりと、切なそうに心の内を告白する狼。


弱気になってうなだれる彼は、肉食獣というよりは小動物のようだった。
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