狼な彼と赤ずきん
結局、彼らの話し合いは一時間以上続いた。


ようやく意見がまとまったようで、狼が多少疲れた顔で家の中へ戻ってくる。



「狼さん……」



不安げな私を見て、彼は安心させるように微笑んだ。



「大丈夫。ちょっとした事件だ」



しかし、「ちょっとした」事件などではないことを、彼の表情が物語っている。


彼の目の奥には、深い絶望の色があったからだ。



「本当に、大したことじゃねえが……俺はこれから家を空ける時間が長くなると思う。いや、俺だけじゃない。森の住人たち全員だ。お前は話し相手がいなくなって暇かもしれないが……絶対に、この家からは出るなよ」



有無を言わせぬ彼の口調に、私は頷くしかなかった。



――昨日、絶対に離さないって言ったのに。



その言葉は、心の中にとどめておいた。
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