狼な彼と赤ずきん
それは、まるでスローモーションのように私の目に映った。


目を見開いてのけ反り、血をふき出しながら倒れる狼。



「狼さん!!!」



私は悲鳴を上げ、彼との約束も忘れて家から飛び出した。



「狼さん、狼さん、狼さん……」



彼の体を中心として、まるで池のように血が広がっていく。


ひどい出血だ。


目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちるのを感じた。


狼が、このまま死んでしまったらどうしよう。



「大丈夫だ、赤ずきん……」



口元に血の泡を浮かべながら、彼がかすれ声で答える。


大丈夫なんて、嘘だ。


こんなにひどい怪我をしているのに。


ひゅうひゅうと、まるで酸素を取り込めていないような呼吸をしながら、それでも大丈夫だなんて強がる彼の様子が痛々しくて、私は直視することができなかった。
< 91 / 129 >

この作品をシェア

pagetop