背番号6、最後の青春
弘也がボールを持つ。相手のボランチが迫ってくる。
前は弘也が、てまどうことなくささっと避けていた。
同じようにじゃなくても、いつもの弘也ならうまく抜けるはずだ。
…“いつもの”弘也なら。
ドリブルしていったところにいきなり左にフェイントをかけて、相手が引っかかったところで、
右へ抜こうと右のアウトサイドでボールを蹴って走り出した時だった。
一瞬、出遅れたのだ。
走り出すのが一瞬遅れたせいか、相手がそちらに体重を動かした。
弘也が右アウトで蹴ったボールは、わずかながら相手の左足に先に触れ、逆に抜かれてしまう。
俺は、見ていた。
一瞬出遅れた時、弘也の左足が小さな小石に引っかかりバランスが崩れかけたところを。
弘也が目を見開く。
目を見開いて、自分を抜いたやつを見ていた。
いきなり振り返ったせきか、急いで追い始める弘也の顔が苦痛に歪む。
振り返った時に捻った左の足からの痛みに必死に耐える瞳が揺れる。