背番号6、最後の青春
近付くごとに、潮の香りがひんやりとした風とともに鼻をかすめた。
少し肌寒さを感じ、弘也の上着を持ってきていたことに改めて安心する。
弘也がもしこのことに気付いていて上着を持ってこいと頼んだなら、言ってくれれば自分の分の上着も持ってきたのに。
でも、きっと弘也もそこまでは考えていなかっただろう。
きっと、ただ病人だとバレないために、パジャマを隠すために上着を着たに過ぎないのだろう。
「やっぱ、海に来てよかった」
ほとんど人がいない砂浜におりて、車椅子を海の方へと押していく。
まだ海開きをしていないから、見渡す限り砂ばかりで人などいなかった。
むしろ、ちょうどよかった。
「弘也、寒くないか?」
そう尋ねると、弘也は海を見つめたまま首を横に振った。
「晴れて、良かった」
今度は空を見上げて、眩しそうにしながらそう呟く。
それに対して俺は同じように空を見上げると、
「本当だな」
これでもかというくらいに水色の広がる空を見ながら微笑んだ。