背番号6、最後の青春
波の届くか届かないかくらいに車椅子を止める。
波が岸に内寄せるたびに、潮の香りは一層強くなっていく。
弘也は空よりも深い蒼を見つめながら、ゆっくりと車椅子から立ち上がろうとした。
「おい、待てよ。大丈夫かよ」
慌てて支えようとすると、大丈夫だと支えようとした手ははねのけられる。
俺は仕方なく、車椅子にブレーキをかけて立ちやすいようにした。
「ほらな、大丈夫だろ?」
立ち上がり一歩二歩進んだ弘也は、くるりと振り返り胸を張ってみせる。
転んでしまうではとヒヤヒヤしたが、確かに大丈夫そうだ。
大丈夫そうと言っても、足は引きずっているけれど。
だけど、それでも弘也はまだ歩いた。
海に沿って、波を眺めながらゆっくりと歩いていく。
風を、気持ち良さそうに全身で受ける。