背番号6、最後の青春
それにしても、俺が弘也を落としたなんて、誰が見間違えたって言うのだろうか。
あの時、俺らが階段から落ちた瞬間を目撃した人はもちろんいないし、落ちたあとを見たのは花梨だけ。
花梨には先生に報告しといてと頼んだが、俺が弘也を落としたとは報告してないはずだ。
そんな報告をしてたら真っ先に俺が呼び出されていた。
つまり、誰かが花梨から話を聞いて自己解釈で俺が落としたことにした…というわけか。
噂の出処が花梨、とは考えにくい。
確かに菜乃ちゃんの言うとおり、非常に興味深い噂である。
あまりに俺に不都合すぎて、悪意があるとしか思えないからである。
…あれ、でも俺、そんな悪意を持たれるようなことしたっけな…。
自分の行いを振り返ってみるがどうも心当たりがない。
「おい瀬川、お客さん来たぞ。ぼーっとするな」
声をかけられてハッと我に返る。
いけないいけない、考え始めるとぼーっとしてしまうのが俺の悪い癖だ。
仕事にはしっかり集中しなければ。