背番号6、最後の青春
保健室の鍵を開けてもらい、弘也はほぼ強制的に椅子に座らされていた。
湿布を探すのを手伝おうとしたが、菜乃ちゃんは場所を心得てるらしくものの数秒で見つかった。
湿布を貼るのは俺がやった。
少し偉そうな態度をとる弘也に、足を思い切り叩いてやろうかと思ったが、それはやめておいた。
「…今更ですけど、弘也先輩どうかしたんですか?」
心配そうに尋ねてくる菜乃ちゃんに笑いかける。
「大したことじゃないから安心して」
俺の答えに、弘也が「それ俺の台詞」と突っ込んできた。
それから弘也は足の痛みなんて気にしない様子で立ち上がり、
「まあ確かに大したことないよ。ただの筋肉痛だからさ」
そう言ってなぜか自慢げに胸を張った。
「それじゃあ、弘也先輩、湿布貼っちゃったし今日は大人しくしててくださいね?」
そう言う菜乃ちゃんに、
「え、マジ?…確かに足引っ張りそうだしな…。リフティングでもしとくかな…」
不満げにブツブツと愚痴をこぼす弘也。
「だから大人しくしてろって」
俺が突っ込むと、弘也は食い気味に首を横に振った。
「無理無理!俺が大人しくできると思ってるの?」
弘也の言葉に、菜乃ちゃんと目を合わせる。
そうして2人して微笑んで、
「思ってない」
2人そろってそう言った。
「ハモるな!」頬を膨らます弘也。
でも次の瞬間、3人そろって腹を抱えて笑った。
楽しいな、弘也といると、菜乃ちゃんといると。
いつまでも、この幸せが続けばいいのにな。
密かに願った想いは、春の晴天に消えていくようだった。
日差しに雪が溶けるように、霞んだ空の向こうにじんわりと消えてしまっていくようだった。