背番号6、最後の青春
だけど、俺はあえてそのことには触れずに、弘也が肩からかけているエナメルバッグを指差した。
「それならそれ、なんで持ってきてるんだよ」
…本当は部活に行きたいのだろう。行けない理由があるのだろう。
だけど弘也は、動じないように下唇を噛み締めてからニッと小さく笑った。
「部活行きたいからだよ。でも、母さんから迎えに来たとかメール来ちゃって」
苦笑いをしながら答える弘也。いつも通りの笑みを浮かべる弘也。
…違和感を感じているのは俺だけだろうか。
「そうか」
問い詰めるにも、弘也が問い詰めがたい表情をするもんだから、適当にそう答える。
弘也は「そうなんだよ」とまた笑う。
「それじゃあ、急がなきゃいけないからよろしく頼むな」
急ぎ足で去っていった弘也の背中を見ながら、それくらいは自分で言えよと心の中で突っ込む。
いつになく居心地の悪さを感じた。
喧嘩をしたわけじゃないのに、喧嘩をしたあとみたいだ。
いや、そういう気まずさじゃなくて、まるで初めて会ったみたいだった。
他人と接している時のような、良く言っても他の友人たちと接する時と変わらない空気。
…うまく付き合っていくために気を遣い合う、むず痒いあの空気と似ていた。