背番号6、最後の青春
それは分かるけど、これじゃあただの八つ当たりだ。
まあ、もともとイライラしていなかったとしても、弘也の動きは確かに鈍い。
先週よりもずっとずっと走れなくなっている。
確実に、着実に、弘也の足は走ることを拒み始めていた。
いつもの通り途中で見ていられなくなり、そろそろ交代の声をかけようとした時だった。
「弘也、水分補給怠ってるんじゃないか?とりあえず日陰で休んでこい」
陸空先輩がそう言って、建物の影になっているところを指差した。
弘也ははじめこそ戸惑っていたが、いいタイミングだと思い俺が交代の声をかけると、
陸空先輩にそうしますと言ったあと、俺にビブスを渡して日陰の方に向かった。
「…なんか逃げたみたいじゃん。つーか、弘也どうかしたのかよ」
相変わらずイライラしている先輩に、陸空先輩は苦笑いしながら、
「息も上がってるしだるそうだし、熱中症かなと思って。
この時期でも水分補給をしてなかったらなるのに、怠ってるように見えたから」
そう言って弘也の方を見てから、俺を見て「な?」と同意を得ようとした。
もちろん、弘也は水分補給を怠ってなどいない。真っ赤な嘘である。