風便り〜大切なあなたへ〜
「大和・・・泣いてるの?」
守屋くんの目は、少し潤んでいるように見えた。
「泣いてねえよ」
守屋くんは鼻をすすりながら言った。
私は守屋くんの手をぎゅっと握って、笑顔で守屋くんを見た。
「大和も、よく泣くよね」
「うるせえ、お前の泣き虫がうつったんだよ」
そうぶっきら棒に言って、守屋くんは私の頭をクシャクシャと撫でた。
私は嬉しくて、微笑みながら小さく髪を直した。
「・・・真子」
守屋くんは、私の名前を呟いて、足を止めた。
私もつられて足を止めて、守屋くんを振り返った。
「俺、高校卒業したら、就職する」
「え?」
守屋くんを見ると、真剣な顔をしていた。
私は守屋くんの、まっすぐ私を見つめる瞳に、心臓が飛び跳ねた。
「・・俺、昔から親に高校卒業したら就職・・っていうか、うちの会社継げって言われてたんだよ」
「え・・?」
「でも、親のいいなりになるもんかって、反抗してた」
「・・・」
「だけど、今は俺、なんのために反抗なんかしてたんだ?って。そんな事より、俺は真子と早く結婚してえって思うようになった」
そう言って守屋くんは、優しく笑った。
私は少し、複雑な心境になった。
守屋くん・・。
やっぱり守屋くんの家、すごい家なんだね・・。
なのに、私のためにそんな大事なことを決めてくれたの?
私、守屋くんが私との結婚のことを、ちゃんと考えててくれてるのは、すごく嬉しいよ・・?
だけど、将来のことを決める大事な決断だよ?
そんなに簡単に、決めちゃってもいいの・・?
「大和・・」
「なんだよ?・・・もしかして、こういうの重てえか?」
そう言って守屋くんは、私の顔を覗き込んだ。
私は嬉しかったけど、少し不安な気持ちで、守屋くんを見上げた。
「ううん・・すごく嬉しいよ?・・でも・・」
私は少し俯いた。
「でも、なんだよ?」
「でも、将来を決める大事な決断だよ?そんなに簡単に決めちゃってもいいの・・?」
私が顔をあげてそう言うと、守屋くんは優しく微笑んだ。