風便り〜大切なあなたへ〜
しばらく沈黙が続いた。
彼の顔は、さっきよりも傷ついているように見えた。
辛そうに見えた。
自然と、涙が流れてきた。
押し倒されてるから、怖いとか、掴まれてる手首が痛いとか、そういう感情で出てきた涙じゃない。
「なに、泣いてんだよ・・俺が怖いか?」
私は、首を横に振った。
首を振ったと同時に、彼の手に力が入り、掴まれた手首が少し痛かった。
「怖くねえのかよ・・じゃあ、なんで」
「わかんない・・ただ、あなたが傷ついた顔してるから、辛そうな顔してるから・・そう思ったら勝手に・・」
私の言葉に、彼の手の力が弱まり、私の手を離してくれた。
「お前、本当、変わってんな・・お前みたいなやつ・・」
そこまで言って、彼は言葉にするのをやめた。
そのあと、また少しの沈黙が流れた。
「・・悪かった、もうしないから、泣くなよ」
そう言われた瞬間、何かが切れたように、涙が溢れてきた。
今になって、あの時、私は怖かったんだという気持ちが溢れてきた。
だけど、あの時は、私より彼の方が辛そうだったから、だからあの時はそんなこと思わなかったんだ。
彼は私が泣き止むまで、隣にいてくれた。
何回も、悪かったと、謝ってくれた。