課長の瞳で凍死します ~旅支度編~
「うう。
信じられません。
あんなに楽しみにしてたのに」
バス停で、真湖は、まだ落ち込んでいた。
ぐっすり寝て体調を整えたかったのに、変な体勢で寝ていたせいで、全身が痛い。
「まあ、移動中寝てればいいじゃないか」
と雅喜が言ってくる。
新婚旅行なせいだろうか。
いつもより、口調がやさしい気がする、と真湖が微笑んだとき、ちょうど、バスが来た。
前に並んでいたのが、大きな荷物を抱えたおばあちゃんだったので、老人にはとりわけやさしい雅喜は荷物を持ってあげていた。
そんな雅喜を見ながら、乗る順番を待っていたのだが、ふと、視界の端に、小さな男の子がひとりで立っているのが見えた。
二、三歳くらいだろうか。
色白で、何処かで見たような可愛らしい顔をしている。
こちらに気づき、
「ママー」
と言って、走ってこようとした。
えっ?
危ないよっ。
こっちにママが居るのかもしれないが、視界の範囲内には居ない。