嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「さっ、帰ろうか」

「……うん」


キミは何も聞こうとはしなかった。

でもいつもと変わらないその笑顔で。
いつもとその変わらない優しい声で。

キミは私と向き合ってくれるんだ。


「……早く手、貸して」


いつもは何も言わずに勝手に繋ぐくせに。
今日に限って言ってくるなんて。
やっぱりキミは優しい。

私が自らの意思で繋ぎたいと思うなら手を繋ごうって。
キミはそう思っているんだよね?


「……うん」


差し出された大きな手のひらに、迷う事なく自分の手を重ねた。


「ん、いい子」


強く握られた手も。
キミが向けてくれる優しい視線も。
凄く嬉しかったけれど。

でも。
どうしてもキミの瞳が真っ直ぐに見る事が出来なかった。

キミの心の声が怖い訳じゃない。

だって私は正輝の事を信じているから。
キミは裏表なんかない。

でもね。
人の心の声を聞いちゃいけないの。

勝手に聞く事なんて許されないの。

だから。
もう、誰とも。

私は誰とも視線を合わせたりなんかしない。

だって、気持ちが悪いんでしょう?
私って。


「……」


キミの視線はまだ私に向けられている。
それでも、駄目なんだ。
振り向く事が出来ない。
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