嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「やだっ……離してよっ……」


住宅街のど真ん中。
人は誰もいなかったけれど、いつ現れるかなんて分からない。
もしかしたら家の中から見ているかもしれない。
それなのに、構わずキミは私を抱きしめてくるんだ、後ろから。

顔を見た訳でもないのに。
キミは苦しそうに奥歯を噛みしめているんだって事が分かる。

優しいキミは私の心の中にある闇に気付いて。
自分の事でもないのに苦しんでいるんだ。
もしかしたら、私よりも。


「アンタは何を抱えているの?」

「っ……!!」


小さな悲鳴が喉の奥から出てくる。
その途端に胸が鷲掴みにされた感覚に陥るんだ。


『化け物』

『気持ちが悪い』


頭の中でグルグルと同じ言葉が彷徨い続ける。
きっと皆、私の事をそう思っているに違いない。
1度考え出したらキリがなくて。
一気に目の前が真っ暗になった。
それなのに、意識はちゃんとあって。
ただ苦しいだけなんだ。
いっその事、倒れてしまえばいいのに。
その方が楽なのに。
その願いすら叶えてくれないんだ。


「ねえ、アンタには俺がいるでしょ」


キミの優しいその声は私の胸に届く前に撃ち落とされたんだ。


『アンタなんかに味方はいない』


そんな声が聞こえてきた。
でもこれはキミの心の声でも何でもない。

私が作り出した幻聴だ。
キミがそんな事を思っているはずがない。
それは分かっている。
分かってはいるけれど。

駄目なんだ。
苦しくて、辛くて。

もう、何も考えたくない。
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