嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
チラリともう1度キミの方を向く。
さっきの顔はどこにもなくて。
何も映していない無表情を貫いていた。


「……」


その顔に胸が締め付けられる。
何かを抱えているのは正輝だって同じじゃん。
それなのにキミは自分の事より私を気にかけてくれて。
多分、自分だって苦しいのに、辛いのに。
ずっと私の傍で、励ましてくれて。
そんな寛大なキミとは比べ物にならないくらいのちっぽけな私。
自分の事だけで精一杯で。
キミの事なんて何も考えてもいなかった。


「正輝……私……」


必死に言葉を探す。
震えていたって、掠れていたって。
自分の気持ちを伝えたくて。

私は立ち向かう事が出来るだろうか。
自分の中にある闇とキミの中にある闇みに。
そしてそれを振り払う事が出来るだろうか?

そんな事は誰にも分からないけれど。
でも……。

何もしないで逃げ回るのはもう嫌だ。


「私……!!」

「和葉」


もう少しで出そうになった言葉はギリギリで口の中に収まった。
それを止めたのはお兄ちゃんで。
私の腕を掴む力が更に強くなっていた。


「痛ッ……」


誰にも聞こえない程小さな声。
それは宙に静かに消えていく。
お兄ちゃんはそのまま私の腕を引っ張ると、家の門を押して中へと足を進める。


「お兄ちゃ……」

「いいからさっさと歩け」


後ろを振り向く事すら許されなくて。
私はあっという間に家の中へと無理やりに押し込められた。
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