嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
立ち上がり窓の外を呆然と眺める。
そこにはキミの部屋に繋がる窓があって。
姿は見えないのに何故だか泣けてきたんだ。

終業式から会ってもいなければ連絡も取っていない。
それは私が望んでやっている事なのに。
胸が苦しくて仕方がないんだ。

スマホを見れば沢山の着信とLINEが来ていて。
メッセージを1つずつ見ればまた涙が出てくる。

私を心配してくれている声。
私を励ましてくれる声。
私を見守ってくれている声。

キミの優しさが詰まっている文章。

絵文字も何もないのに。
何でこんなに温かい気持ちになるのだろうか。


「正輝っ……」


自分で勝手に距離を置いているくせに。
寂しがるとかあり得ない。
なのに今、キミに会いたいんだ。
自分勝手で我儘な想い。
それは消えていかなくて。
窓に背を向けてクローゼットに向かって走り出す。
適当な服を掴んで着替えるとバッグにスマホを押し詰めて走り出す。

誰もいない静かな家。
私の足音だけが響いていて少し虚しいのに。
そんな事はどうでも良かった。

階段を落ちる様に駆け下りて。
玄関へと向かって走る。

細かい事なんてどうでもいい。
ゴチャゴチャと考えていた事だってどうでもいい。

ただ今はキミに会いたい。

スマホで連絡を取ればいいのに。
その時間すらもったいなくてとにかく前に進みたかった。

勢いよく開いた扉。
久しく感じた事がない光が包み込んで。
眩しさが目をくらますけれど。
決して閉じる事はしなかった。

だって。


「あっ……」


私の視線の先に映るのは会いたいと願っていた人だったのだから。
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