嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
泣きじゃくる私の体を抱きしめてくれた。
キミの声が耳元でそっと囁かれて苦しいはずの胸がジワリと温かくなるんだ。


「アンタはいつも何かを耐えていた。
その何かはアンタにとって凄く辛いモノだって事は分かるけれど。
それがなんなのかは想像もつかないんだ」

「……」

「俺は何があっても和葉の傍にいる。
和葉の抱えているモノを俺も一緒に背負うから……。
だからっ……俺を頼れよっ……」


キミの泣きそうな声。
それは今にも消えてしまいそうなものだったのに。
私の胸には深く突き刺さったんだ。


「キミだって……何か抱えているっ……。
私だって……キミの……正輝の力になりたいよっ……」


自分の事だってきちんと出来ていないのに。
人の事まで考える余裕なんてない。
なのに、キミの事を支えたいと思う気持ちに嘘はないんだ。


「……アンタには言えるかもね……」

「え?」

「でもその前にアンタの事を知りたい。……駄目?」


真っ直ぐに私を見るキミ。
可愛らしく首を傾げる正輝に私は思わず声を出して笑ってしまう。
涙で顔はぐちゃぐちゃなのに。
心がやけに軽くて。
私は考える事もしないで頷いた。

『化け物』

そんな言葉が私を襲うけれど。
大丈夫、だって目の前のキミはそんな事を言わない。
そう信じているから。

ぎゅっと唇を結んで正輝を見つめた。


「……」

「……」


一瞬だけ沈黙が出来るけれど。
すぐに消える。
それは私の明るい声によって。


「私さー……心の声が聞こえるんだ」


恐いなんて思わなかった。
もう、恐れるのは止めたんだもん。
キミの前では。
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