嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「そっか」


キミから出たのはたったそれだけで。
思わずキョトンと目を丸めてしまう。


「えっと……」


別に何かを言って欲しい訳ではない。
同情をして欲しい訳ではない。
慰めて欲しい訳でもない。

だけど、あまりにも呆気なくて言葉を失ってしまう。


「なに?」

「なにって……何かないの……?
信じられないとか、気持ち悪いとか……」


自分で言っておいて少し胸が苦しくなった。
ぎゅっと奥歯を噛みしめていればキミはムッとした様に眉を顰めた。


「そんな事を想う訳ないでしょ。
アンタはアンタじゃん。
人の心の声が聞こえようと関係ないし」

「え……」

「それよりも。
……アンタが今まで苦しんで、傷ついてきた心の方が心配だよ」


正輝はそう言うと握っていた手に力を入れた。
離さない、まるでそう言われているみたいだ。
驚いていればキミは心配そうに私を見つめる。


「今までよく頑張ったね」


キミが呟いた言葉は波の音に紛れてしまうくらいに小さかった。
でも、十分だった。


「うっ……あぁっ……」


ぼやける視界。
涙でいっぱいの瞳。
その先でキミは呆れた様に笑っていた。


「泣き過ぎでしょ」

「あっ……だぁって……」

「喋れてないし」


クスクスと笑うキミ。
その隣で泣く私。
少し可笑しな光景が大好きなこの海が見つめている中で繰り広がっていた。
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