嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「落ち着いた?」

「……ん」


キミの真似をして短く返す。
すると優しい笑みを返された。


「良かった」

「正輝のお蔭だよ」


泣きじゃくったせいで目は腫れて重たいけれど。
キミの顔を見ていれば晴れ渡る様に心が軽かった。

何か呆気なかったな。
あんなに考えて、悩んで。
1人で閉じこもっていたのに。

キミの声が。
キミの優しさが。

私を救ってくれるんだ。


「なら良かった」

「でもさ……何で信じてくれたの?」


普通だったら信じられないだろう。
頭がおかしいと罵倒をされてもおかしくない事なのに。
キミは疑う事を知らないかの様に私の言葉を受け入れてくれた。


「だってさ……。
アンタは嘘をついていないし、つける様な人じゃない」

「そんな事ない……。
私は嘘をつくよ!たくさん……たくさん!!」

「違う。
アンタがついてきた嘘は人を傷付けない優しい嘘だ」

「優しい……嘘……?」


首を傾げればキミは『うん』と頷いて遠くの海を見つめたんだ。
あの時の顔。
いつか見た哀しそうなあの顔。


「正輝……」


私は何の躊躇いもなくキミに抱き着いた。
その顔を見ていたくなくて。
正輝は驚きながらも私を受け止めてくれる。


「……それに信じたいと思ったんだ」

「……え……」

「アンタと出逢った時から……アンタだけは信じられるって思った。
だって和葉は嘘つきだらけの世界に染まっていない綺麗な心をしていたから」

「何を言って……」


戸惑う私にキミはフッと頬を緩めた。


「俺さ……病気なんだ」


キミの口から出た言葉は信じたくないモノだった。
時が止まったかの様に何も聞こえなくなる。
開いた口が動かなくなる。
キミが目の前からいなくなる恐怖が一気に襲いかかってきた。
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