嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「いやだよっ……正輝と離れるなんて嫌だよ!!」


ぎゅっと抱き着いてキミから離れない様に力を入れる。
ついさっきまでは離れようとしていたのに。
都合が良過ぎるけれど、キミと離れたくないんだ。


「ちょっと待ってよ。
別に病気って言っても死なないし」

「え……」


安心するのもおかしいけれど心の底からホッとする。
キミがいなくなるなんて想像すら出来ないもん。
離れようと動こうとするけど、今度はキミから抱きしめられた。


「このまま聞いて」

「……うん」


あまりにも真剣な声で。
私は離れる事をやめてキミの腕の中で大人しくする。
波の音と鼓動の音だけが響いていた。
恥ずかしいけど、心地が良い。
そう思っていればキミの声が耳に届く。


「事故に合ったんだ。
……中学2年の時に」

「事故……」

「うん」


サラリと言っているキミ。
いつもと変わらないその声で。
多分、笑顔も浮かべていると思う。
自分が事故に合った話をこんなに穏やかな声で話せるものなのか。
私には分からないけれど、多少なりとも思う所はあるはずだ。
それなのに……。
自然に歯に力が入る。
ギリギリと軋む歯。
黙ったままいれば更にとんでもない言葉が入ってくる。


「その後遺症で、俺は嘘がつけなくなったんだ」

「嘘が……つけない……?」

「そう」


『ははっ』と雰囲気に似合わない笑顔まで浮かべて。
キミは私に説明をしてくれる。
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