嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
花火に見惚れていればキミは砂浜においてあった私の手に自分の手を重ねたんだ。
驚いて横を見れば空を見上げるキミがいた。
私の方を向く事なくそっと口を開く。


「それとさ……アンタは気にし過ぎだと思うよ」

「え?」

「心の声の事。
別にアンタが心の声を聞けても何も問題ないじゃん」


キミの言葉に力なく笑って空を見上げた。
キミは優しいからそう言ってくれているけれど。
皆が皆、そうではないんだ。
寧ろ、キミが特例だと思う。


「ううん、だって人の聞いて欲しくない想いまで勝手に聞くんだよ?
そりゃあ、皆怒るし、気持ち悪がられて当然だと思う」


聞かれたくないから、言葉にしないんだ。
それを聞かれていると思うと腹が立つのは当たり前だ。
そう思っていればキミは“よく分からない”と言った様に首を傾げた。


「何で?
聞かれたくない事を思う方が悪いじゃん。
心の中で思っている事を口や行動に出さないのは嘘をついているのと同じ事。
だから、アンタが悪い訳じゃないじゃん。
……嘘をつく方が悪い」


『それに』とキミは続ける。
花火から目を逸らして私を見るとにっと口角を引き上げた。


「俺は凄いと思う。
だって人の心の声が聞けるって事は……。
誰かの心に寄り添えるって事でしょ?」

「え……?」

「誰かの哀しみをいち早く察してあげられるなんて。
そうそう出来ないし、アンタは誰かを救う事だって出来るんだから」


キミの言っている事がよく分からなかった。
でも、私の事を想ってくれている事は分かるから。


「……うん……ありがとう……」


小さくお礼を言ってキミに笑いかける。


「っ……別にお礼を言われることはやってないけど」


照れた様に笑うキミ。
それが可愛くて私はクスクスと笑った。
一瞬だけ不機嫌そうな顔をしたキミも次第に笑顔に変わる。


「それと」

「ん?」

「……ネックレス似合ってるね」


褒め言葉に目を丸めるけれどすぐに頬が緩んでいく。


「正輝が選んでくれたからね」


悪戯っ子の様に笑えばキミはまた頬を紅くしたんだ。

私たちの頭のずっと上で。
いつまでも鮮やかな花たちが優しく咲き誇っていた。
< 126 / 336 >

この作品をシェア

pagetop