嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
テストが始まってから少し経った時。


「先生」


聞き慣れた少し低い声が耳に届いた。
それは間違いなく正輝だった。

キミが質問をするなんて珍しい。
何か問題にミスがあったのかな?
そう思い目を配るけれど特に間違いはないように見えた。


「どうした?」


先生が正輝の所に行く。
少し間が開いた後にキミは言葉を放った。


「俺の席の前の人、カンニングしてます」


その言葉に一気にザワつく教室。
皆の視線が正輝と前の人に向いていた。

それは私も同じでキミの方を見つめる。
正輝は無表情を貫いていたけれど。
どこか哀しそうに見えるその顔にズキリと胸が痛んだ。


「なに?カンニング!?」

「え、やばっ!!」

「ってか普通チクルか?皆の前で」


ヒソヒソと話すクラスメート。
先生は慌てた様に教室を見渡す。


「お前ら静かにしろ!!
とりあえずテストを続けろ!!
山本、後で話を聞くからお前もテストをやれ」

「は、はい……」


真っ青な顔で頷く山本くん。

何とか教室は静かになっていたけれど。
皆テストどころではないのか、チラチラと正輝や山本くんを見ていた。

私もキミを見つめるけれど。
キミは至って普通にテストを続けていた。
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