嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
テストが終わって、HRも終わったのに教室には沢山の人がいた。
正輝の机を囲みながら主に男子を先頭としてキミに絡んでいた。


「ってかあり得ねぇ。
例えカンニングを見たとしても仲間を売るか?普通!?」

「テメェ目立ちたいからってわざとやってるんじゃねぇの!?」

「その髪もさ!!」


1人の男がキミの髪を掴んだ。
周りは盛り立てているけれど私は無性に腹が立った。
キミが何も言おうとしないから私も黙っていた。
だけど。


「ちょっといい加減にしなよ」


人だかりを掻き分けてキミの髪を掴む男の手を掴んだ。


「何だよ白石!」

「何でこんな奴庇うんだよ!」


近くにいた男たちが煩く責め立ててくるけれど私は無視をしながらキミを見つめた。


「帰る準備は出来た?」

「うん」

「じゃあ、行こう」


キミに笑いかければ小さく頷いてくれる。
立ち上がったキミを男たちは逃がさないといった様に囲んでいた。


「逃げるなよ!」

「白石!お前も変だぞ!
前まではもっとノリが良い奴だったじゃねぇか!」


男の言葉に少し昔の自分を思い出していた。
正輝が来る前は、私は皆に合わせて生きてきた。
周りに浮かない様に自分の気持ちを押し殺して。
醜い感情に耐えて、作った笑顔を浮かべて。
その時はそれでいいやって諦めていたけれど今は考えられない。
自分に嘘をついてまで周りと仲良く振る舞っていなくたっていい。
たった1人でも本気で向き合える人がいればそれでいいんだ。

チラリと正輝を見て私は笑った。


「私は変われたの、正輝のお蔭で」


にっと口角を上げればキミは呆れた様に笑った。


「もう行こう和葉」

「はいはい」


私の手を掴むキミ。
少し照れた様に笑う正輝に頷き返して私も彼の手を握り返す。
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