嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「俺、嘘なんかつかないよ。
……だって死にたくないもん」


キミの真っ直ぐな声が教室中に響いた。

真っ直ぐ過ぎるその瞳に。
私の心は温かくなっていく。

一瞬だけ静かになる空間。
でも、すぐに騒がしくなるんだ。


「は!?
何だよ死にたくないって!」

「嘘ついて死ぬ訳ないだろ!」

「うーそつき!うーそつき!」


教室中にそんなコールが流れ始める。
そんな場所にいたくなくて。
ノリで乗っかる人たちが嫌で。
口を開こうと思ったけれど。
キミに止められるんだ。


「行こう」

「でも……」

「気にしてないし、時間の無駄だから」


キミはそう言って私の手を引っ張って教室を出た。
未だに聞こえる嘘つきコール。

でもキミは本当に気にしていないみたいだ。
涼しい顔をするキミ。

だけど何かを考えているようにも思えたんだ。
それが何かは分からない。

不安が私を襲うけれど。
キミなら大丈夫。

そう思って、特に何も言わなかった。

言葉の代わりに繋いでいた手に力を籠める。

いつもなら、握り返してくれるけれど。
今日は何の反応もなかったんだ。


「正輝……?」

「……」

「正輝!」

「……え?何か言った……?」


驚いたような顔。
まるで私の声が聞こえていなかったみたいに。


「呼んだだけ……」

「……そう」


力なく笑ったキミの顔。
それを見た瞬間に胸がズキリと痛んだんだ。
< 136 / 336 >

この作品をシェア

pagetop