嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「じゃあね」


家の前に着いた瞬間にパッと離される手。
いつもなら少し立ち話をするのにキミは今すぐにでも帰りたさそうだった。


「正輝!」

「……なに?」

「何か用事があるの?」

「別にないけど」


私に背を向けたまま話すキミ。
どこか様子がおかしくて正輝の腕を掴めば大袈裟なくらいに肩が揺れた。


「少し話さない?」

「……今日は帰る。ごめん」


優しく私の腕を離すとキミは振り返る事もせずに家へと入っていった。
私はその場に立ち尽くしながら、もうキミがいない場所を見つめる。

どうしたのだろうか?
さっきの正輝はやっぱりおかしかった。

皆に嘘つきと言われた事が嫌だったのだろうか?
そう考えたけれど、すぐに違うと判断する。

だって正輝は気にしていないと言ったから。
だからそれに関しては大丈夫なはずなのに。

でもそれ以外は思い浮かばなかった。
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