嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「やっぱりおかしいよ……」


ベッドで腕組みをしながら座ってポツリと呟く。

昨日から正輝の様子がおかしすぎる。
電話もLINEも全然反応がないし。
いつもなら土日で学校がない日でも一緒に過ごすのに。

こういう時もあるのかな?
そう思おうとしたけれどやっぱり納得がいかなかった。


「……よっし」


立ち上がり、急いで着替えて自分の部屋を出る。


「……和葉」

「お、お兄ちゃん……」


お兄ちゃんの部屋の前を通れば急に扉が開いたので驚いて尻餅をついてしまう。
そんな私を見て呆れながらも手を差し伸ばしてくれた。


「大丈夫か?」

「うん、ありがとう!」


お礼を言えばお兄ちゃんは『いや』と笑ってくれるけれど。
中々手を離してくれなかった。


「お兄ちゃん……?」

「何処かに出掛けるのか?」

「うん」

「そうか……」


お兄ちゃんは一瞬だけ怖い顔をしたけれどすぐに笑顔に戻った。
クシャリと私の頭を撫でるとお兄ちゃんは階段を下りていく。
私もそれに続いて下へと行けばお父さんと鉢合わせをした。


「どこか行くのか?」

「う、うん」

「(男か……くだらん)」


思わずお父さんの目を見てしまった。
一瞬だけたじろいでしまうけれど直ぐに笑顔を浮かべる。


「じゃあ行ってきます」

「ああ、気を付けてな(遊んでいないで勉強をしろ)」


表と裏の顔、両方のお父さんに送られながら家を出る。
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