嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「え?出掛けたんですか!?」

「そうなのよ」


申し訳なさそうな顔をするのは正輝のお母さんだった。
正輝の家を訪ねたけれど、どうやらいないみたいだ。


「何処に行くとか言っていませんでしたか?」

「何も言ってないのよ……。
私はてっきり和葉ちゃんと遊びに行ったと思ったもの」


私たちはお互いの家族に会っているし、それなりに仲が良い。
だからこうやって2人で話していても緊張はしないんだけど。


「(あの子……大丈夫かしら……。
まさか変な事を考えているんじゃあ……)」


正輝の家族の人たちの心の声を聞く事が少し苦手だった。
正輝が前に言っていた通り、キミのお父さんもお母さんも。
キミに同情していたり、気を遣っていたり。
本音でぶつかっていない様だった。
まあ、私の家族もそうだけれど。


「……正輝は大丈夫ですよ」

「え……?」

「彼は強いですから……凄く」


安心させる様に笑顔を浮かべる。
最初は首を傾げていたけど正輝のお母さんは小さく頷いた。


「そうね……。
あの子は強い……弱音すら私たちの前で言わないもの。
私たちのせいであの子に苦労を……」

「あの!」


正輝のお母さんの哀しそうな顔に私は思わず口を挟んでしまった。
そんな私に嫌な顔ひとつせずに笑顔を向けてくれる。


「正輝は……苦労なんて思っていませんよ」

「え……」

「だからお母さんたちがそうやって正輝を心配すればするほど……。
彼は重荷に感じてしまうんじゃないでしょうか……」


言葉はキツいかもしれないけれど。
私はどうしても止まる事が出来なかった。
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