嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
『……父さんは腫れものに触る様に俺に接して。
母さんはいつも俺の機嫌を気にする様に見てて。
弁当だって、食事にだって俺の好きなモノだけを作る様にしてて。
一緒にいて凄く苦しいんだよ……。
そんな中で兄貴だけが普通に俺に接してくれて助けられたんだ』


正輝が私に話してくれた自分の想い。
あの時の正輝は本当に辛そうだった。
同情なんてされたくない。
そう思っているのにそれとは裏腹に自分に刺さる視線はいつだって同情が混じっていて。
そんな家にいたくなくてキミは1人になろうとしている。

私と似ているからか。
放って置けなくていらないお節介を焼いてしまう。


「私は真っ直ぐな正輝が大好きです。
お母さんたちは違うんですか?
嘘つきの正輝が好きなんですか?」

「そ、そんな事は……」

「だったら……何を気にする必要があるんですか?
嘘がつけなくなって、本人は気にしていないと言っているのに。
何でお父さんやお母さんが引きずるんですか?」

「それは……」


私だって分かっている。
キミのお父さんもお母さんも凄く苦しんでいるって事くらい。
だけどいつまでそれを続けるの?
そうする事が償いだと思っているならそれは大間違いだから。
その想いが正輝を苦しめているって気が付いて欲しいから。


「正輝は普通に接して欲しいんじゃないでしょうか?
豪華なお弁当なんて正輝は望んでなんかいない。
本当は分かっているんじゃないですか……?」

「和葉ちゃん……」


涙を浮かべるお母さんを見た瞬間に、しまったと頭を抱えた。
余計な事を言いすぎてしまった。


「すみません。何も知らないのに……」

「ううん……嬉しかったわ……。
貴方みたいな子が正輝の傍にいてくれて……」

「え……」

「これからも正輝の事を宜しくお願いします」


深く頭を下げるお母さんに私も慌てて頭を下げ返す。


「こ、こちらこそ宜しくお願いします」

「……本当によかった……」


嬉しそうに笑うお母さん。
少しやり方は違ったけれどお母さんは本気で正輝の事を大切に想っているんだ。
それが分かって凄く安心した。
< 140 / 336 >

この作品をシェア

pagetop