嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
海に着いた時にはもうヘトヘトで息が切れていたけれど。
それでも私の顔には笑顔が浮かぶ。

だって広い砂浜に1つの影があったから。
ココからではよく見えないけれど。

間違える訳がない。
キミの後ろ姿を。

少し高い段差を飛び降りて。
砂浜に着地をする。

気が付かれない様に、息を潜めて静かにキミに近付く。

距離が近付く度にハッキリと見えた。
キミの哀しそうな顔が。

そんな顔を見ていたくなくて。
私はワザと明るい声を出した。


「なーに辛そうな顔をしているのー?」

「え……和葉……」


振り向いたキミの顔は目が見開かれていて。
本気で驚いているんだと分かる。
そんなキミを無視して私は歩き出す。
正輝のすぐ隣へと。


「な、何でココに……」

「2人で一緒に来るって約束したじゃん。
なのに抜け駆けとかズルいよ!」

「……ごめん。
じゃなくて!何でココが分かったの?」

「んー……気が付けばココに足が向かってた。
何でか分からないけれどキミがココにいると思ったんだ」


にっと笑顔を浮かべれば正輝は複雑そうな顔をしたんだ。
いつもなら笑顔を返してくれるのに。
やっぱりキミは様子がおかしい。


「……俺は……」

「うん」


何かを迷う様に口を開く正輝。
よっぽど言えない事なのかキミは苦しそうに顔を歪めた。
でも決心した様に海を見つめていた。


「俺はココに別れを告げに来たの」

「え……?」


思いがけない言葉に目を丸めてしまう。
だって別れって……。
よく分からなくなりキミを見つめるけれど。
こっちを向いてくれない。
キミは今何を想っているの?
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