嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「どうして私から離れようとするの……?
私は……私は正輝と一緒にいたいよ。
これからもずっと……」


キミの腕を掴んで。
キミを見上げる。

揺らぐその瞳にはちゃんと私が映っていた。

だけど直ぐにそれは逸らされる。
その時に頭に声が響いた。


「(離れたくないに決まっている。
でも……これしか方法が見つからない……)」

「方法って何……?
キミは一体……何をしようとしているの?」


居ても立ってもいられずにキミの体を揺らす。
暫く口を噤んでいたけれど。
キミは突然と苦しそうに胸を掴んだ。


「えっ……」


ガクンと足を折ってキミは砂浜に膝をつく。
呼吸が乱れていて、顔も苦しさで歪んでいて。


「あっ……う……」


声すら出せずにキミは砂浜へと倒れこむ。

いきなりどうして!?
パニくる私の頭には前に正輝が言っていた事が頭に浮かんだ。
確か、嘘をつく事は言葉だけじゃなくて態度も入るって言っていた。
私が、何をしているか聞いたのに、答えなかったからキミは苦しんでいるの……?
そうだとしたら……。
何で苦しんでまで黙っているの?

分からなくて。
涙が溢れ出てくる。


「お願いだから教えて!もう苦しまないでっ!!」

「っ……うっ……」


それでも言おうとしないキミ。


「正輝!!」


お願いだから、もう止めて!!
私の叫びが届いたのか正輝は声を絞り出して話してくれる。


「俺が……傍に……いるとアンタまで……変な目で見られるから……。
はぁっ……だからっ……駄目なんだよっ……離れなきゃ……」


キミの小さな声。
だけど私には衝撃的で。

私を守る為に1人で苦しもうとしていたなんて。
それを知らずにキミを追い詰めた。

次第に落ち着きを取り戻す正輝。
荒れていた息も静かになって。
いつものキミに戻っていく。
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