嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「もう大丈夫だから……泣かないで……」


泣きじゃくる私の頭を優しく撫でてくれる正輝。
そんなキミの顔はやっぱり哀しそうだった。


「何で……」

「え?」

「何で離れたくないって思っているのに離れようとするの!?
……それは嘘じゃないの!?」


哀しみでいっぱいで。
私を守ろうとしてくれたキミを怒るなんて筋違いだけれど。
どうしても言わずにはいられなかった。


「……うん、それだけだったら嘘になるね」

「じゃあ……」

「でも……それと同じくらい……。
アンタの事を守りたいって思っているから」


正輝は目を細めて笑った。
キミの笑顔を久しぶりに見た気がした。

たった1日、いやそれ以下なのに。
何故かキミの笑顔が懐かしくて。

多分、それだけキミの笑顔が好きなんだ。


「私は守って欲しくなんかないっ……。
正輝が傍にいてくれればそれでいいの!」


キミを見つめるけれど。
ゆっくりと首を横に振られる。


「駄目。アンタは俺にとって大切な人だから。
守りたいんだ、どうしても。
これは俺の意思だから……」


優しく笑うキミにこれ以上、なんて言っていいか分からない。
黙り込む私の頭を撫でるとキミはそのまま立ち上がった。
服についた砂を払い、それが終わると私を見つめた。


「じゃあね、和葉」

「正輝……」

「気を付けて帰るんだよ」


そう言って私に背を向けて歩き出すキミ。


「正輝!!」

「来ないで!!」


追いかけようと走り出すけれどキミの怒鳴り声に立ち止まってしまう。
こっちを向いてくれさえしない。


「どうしてっ……」

「アンタを見ていると決心が鈍るから」

「それでいいじゃん!
私は……もう……キミなしじゃ生きられないよっ……」


ポタリと流れた涙。

キミは振り返りそうになったけれど。
拳を強く握りしめて歩き出した。

遠くなっていくその背中が。
涙でぼやけて何も見えなくなる。


「傍にいてよっ……」


震えた声は誰にも届かずに消えていった。
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