嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「佐藤先生!」


ガラリと音を立てて職員室の扉を開ける。
担任の姿を見つけて慌てて駆け寄っていく。


「白石!?
どうした朝から……?」

「あの、カンニングの件で……」


声のボリュームを落として佐藤先生に訊ねる。
少し顔を顰められたけれど、私が真剣な顔をしている事が分かったのか。
佐藤先生も小声で話し出す。


「山本に話を聞いたんだが。
中々、認めないんだよ」

「そうなんですか……」

「それより!
お前はどうだったんだテスト」


それよりって。
カンニングの件より私のテスト結果を気にするなんて。
キリキリと心が痛んだ。


「今は関係ないですよね、それ」

「白石……?」

「あのカンニングで苦しんでいる人がいるのに。
そんな事を考えないで下さいっ……失礼します」


ポカンと口を開けたまま固まる佐藤先生に頭を下げて職員室を出る。

今までの私なら。
佐藤先生に何も言わずにヘラヘラと笑顔を浮かべていただろう。

でもそれをしなかった。

自分の気持ちに嘘なんてつかなかった。

やっぱり正輝が私を変えてくれたんだ。
だから少し強くなれたんだよ。

キミの真っ直ぐな優しさが。
私の心を救ってくれた。

だからその優しさで今度は私が。
キミも他の人も守って見せるから。
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