嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「(一ノ瀬とコイツを引き離せばアイツのダメージが大きいはずだ)」

「(コイツに裏切られれば一ノ瀬は潰れる)」


同じ様な言葉が頭に入ってくる。
そうか。
この人たちのターゲットはあくまでも正輝だ。
私は利用されようとしているんだ。

初めて人の心の声が聞けた事に感謝をした。


「私と正輝は安っぽい絆なんかで結ばれていないの」

「……は?」


何を言ってるんだコイツ、と言いたげな目で見てくる男たち。
もっと分かりやすく言ってあげる。
あなた達でも理解出来るようにね。


「私が正輝を裏切る訳ないじゃない!!」

「それを聞いて安心したよ」


目の前の5人は誰も口を開いていないし、心の声が聞こえた訳じゃない。
だってこの場にいるはずがない人の声だもん。


「あっ……」


男たちの隙間から見えたのは、すっかりと見慣れた茶髪。
にっと口角を上げながら私を見ているのは正輝だった。


「和葉から離れてよ」

「あ?」

「離れろって言ってんだよ!!」


キミが怒鳴れば男たちは反射的に道を開けていた。
よっぽど驚いたのだろう。
こんなに感情的なキミを見るのは初めてだろうし。
私は前に見た事があるから、そこまでは驚かない。


「……ばーか、何してんの?」

「んー……リンチ?」


正輝の質問にワザとらしく笑えば深くタメ息を吐かれる。
男たちの間を通って私の隣に来たキミを見つめれば、その顔には安心が籠められているのが分かった。


「無事でよかった」

「……正輝が助けに来てくれたからね」


顔を見合わせて笑い合えば、男たちはハッとした様に声を荒げた。


「イチャついてんじゃねぇぞ!!」


その言葉に首を傾げる。


「イチャついてなんかないし」

「はあ!?」


丁寧に答えてあげたのに、男はいきなり叫びだすし。
少し面倒臭くなっていればキミも同じ思いなのか眉間にシワを寄せた。
< 156 / 336 >

この作品をシェア

pagetop