嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
2人でサボって屋上に入り浸っていれば、もうお昼の時間になろうとしていた。
さっき教室にお弁当を取りに向かったけれど移動教室だった為、誰1人いなかった。
まあ、そっちの方が有難いのだけど。


「ちょっと早いけど食べる?」

「うん、お腹空いちゃったし!」


にっと笑えば軽くタメ息を吐かれる。
だけど直ぐに『うん』と了承の言葉をくれるんだ。
2人でお弁当箱を開ければキミは顔を顰めた。
この顔を見るのもすっかりと慣れてしまった。

キミが言う、同情のお弁当。
それを見る度に哀しそうな顔をするキミ。

前に正輝のお母さんとお弁当の事を話したけれど。
結局、何も変わらなかった。
でも、お母さんなりに必死に考えているんだと思う。

正輝の事を想っているからこそ。
どうしていいか分からないのだろう。


「……いただきます」


キミは両手を合わせて箸を持った。
未だ哀しそうな顔は消えないけれど1つずつしっかりと口に運んでいる。


「いただきます」


私も手を合わせて箸を持つ。

正輝のお弁当ほど豪華なものではないけれど。
毎朝、お母さんが早起きをして作ってくれるお弁当。
仕事で忙しいのに、欠かさずに作ってくれて。
お母さんには感謝しかない。

だけど……。
心の声を聞いてしまうと、少し落ち込んでしまう。
それでも前よりは随分とマシになった方だ。
正輝と出会う前だったらご飯の味何か分からずに、無理やり押し込んでいたもの。


私もキミも。
悩んでいる事は違うけれど。
必死に闘っているんだ。


「……美味しいね」

「……うん」


私が言えばキミも小さく頷いてくれる。
もし、家族と本気で向き合える日が来たら。
私も正輝も、今よりももっと輝いた笑顔で笑えるのだろうか。

もう2度と、キミの哀しそうな顔を見なくて済むのだろうか。

その答えは分からないけれど。
そんな日が来て欲しい。

そうしたら2人で、またココで一緒にお弁当を食べるんだ。
いつもと同じ様に。

だけど、その時はきっと。
もっと幸せを感じられているだろう。
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