嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「痛ッ……何するの……」

「痛くないでしょ?頭の下に寝袋を置いてあげたんだから」


キミの言う通り、寝転がった私の頭の下には青色の寝袋があった。
これがなかったらコンクリートに頭を強打していただろう。
そう思いながら空を見上げる。
視界いっぱいの星空に『あっ』と小さく声を漏らせばすぐ隣に寝転がっていたキミはクスクスと笑い出した。
キミに引っ張られた手はそのまま握りしめられて離される事はなかった。


「正輝」

「ん?」


顔だけを私に向けると柔らかい笑みを浮かべてくれる。

ねえ、気が付いている?

その笑顔も。
キミの声も。
手の温もりも。

正輝の全部が私の鼓動をおかしくさせているって。
トクントクンと揺れ動く心臓を感じながら私も目を細める。


「キミと見る景色は何よりも綺麗だって思うんだ」

「何いきなり」


少し照れた様に笑うキミ。
その手を握りしめて視線を空に向けて話し出した。


「んー分かんないけど……そう思うんだ。
正輝と会うまではそれで満足していたはずなのに。
キミと一緒にいる様になってからは1人で同じ景色を見ても心が空っぽなの」


今ココに正輝が居なかったら。
この星空もそんなに感動はしないだろう。
キミが隣にいるから綺麗だって思えるの。


「……そんなの俺も同じだよ」

「……え?」

「前に言ったでしょ?
いつも1人になりたがってたって」

「……うん」


正輝も私と同じ様に、この世界の喧騒から逃げ出したかったんだ。
醜い嘘つきだらけの世界や人間から目を逸らして。
綺麗なモノを求めて1人になりたがっていた。


「でも、アンタと会って、一緒に過ごす様になってからは……。
和葉が隣にいるのが当たり前になった。アンタがいないと落ち着かなくて、胸が苦しくて。
……どうしようもない気持ちになるんだ」


正輝は私の手を握りしめると『ははっ』と笑う。
チラリと正輝を見れば幸せそうに顔を緩めているのが目に映った。
そんなキミの顔を見ながら私も頬を緩める。
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