嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「……なんか……考えて損した気分……」

「え……」

「どこかで分かってたんだ。
アンタならきっと……そう言ってくれるって……希望も込めてさ……」


笑ったキミの声は僅かに上ずっていた。
握りしめられた手から伝わってくる体温が、正輝の想いを届けてくれるかの様に熱くなっていく。


「そっか……」

「うん、アンタはやっぱり変わってるね」

「正輝には負けるけどね」


そう言ったと同時に私の体はキミの方へと引っ張られた。
寝転がったままピタリとくっつく私と正輝の体。
肌寒い風が私たちに吹いているのに。
そんな事が気にならないくらいに熱くなっていた。
キミの腕の中に押し閉じ込められて。
キツイくらいに抱きしめられて少し息苦しいのに。
それでも離れたくなかったんだ。
正輝の背中に手を回せば正輝は小さく笑った。
凄く、幸せそうに。


「アンタの方が綺麗だよ」

「え……」

「俺さ……嘘がつけなくなってから。
人の嘘も見抜けるようになったんだ」


そういえば、キミは事あるごとに私の嘘を見破っていたな。
そう思っていれば正輝の手が私の後頭部をそっと撫で下ろした。


「全ての人間が自分勝手な嘘ばっかりついていて。
本音なんて何処にもなくて、誰も信じたいなんて思えなかった。
事故に合うまで仲良くしてた友達とも関わりたくなくなって。
俺は1人を選んだ。これからもずっと1人で生きていくって思ってた」

「……」


もし、私がいきなり嘘をつけない様になったら。
当たり前のようにしていた事が出来なくなったら。
きっと、戸惑うし、耐えきれずに、壊れていたと思う。
だけど正輝はずっと闘ってきたんだね。
苦しんでもがいて、それでも自分の想いを貫いてきた。
それがどれだけ凄い事かは想像でしか分からないけれど。
きっと……。
他の人だったら到底、無理だと思う。
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