嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「でも、アンタは自分本位の嘘なんてつかなかった」

「自分本位の嘘……?」

「うん……。
前も言ったけど、誰かを傷付けない為の嘘。
俺にはそれも出来ないけど、その嘘は嫌いじゃないよ」


正輝が撫でてくれる髪。
少しくすぐったくて身を捩れば力強く抱きしめられる。


「正輝……?」

「俺から離れないで……。
もう1人は嫌なんだっ……」


キミが今までくれた言葉は全部が本物だ。
でも、今の言葉よりキミの心が近いと感じたものは他にはないかもしれない。


「離れないから……。
ずっと傍にいる、正輝の隣は私の居場所だから。
だから……私の隣には正輝がいて?ずっと」

「……ん。
アンタが離れたがっても……離してなんてあげないから」


キミの小さな束縛。
それは嫌だとは感じなかった。
寧ろ嬉しかったんだ。


「……離れたがる訳ないよ。
だって私には正輝が必要なんだから」

「……ん……俺も」


ぎゅっと強まったキミの腕の力。
抱きしめられる度に胸が締め付けられるんだ。
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