嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「お前ら席につけー」


見慣れた大人の男、30代半ばで体育会系のその人は私のクラスの担任。

皆は自分の席に着きながらも、どこかソワソワとしていた。
その理由はこれだろう。
私の席の隣にチラリと目を向ければ空席が目立っていた。
窓側の1番後ろの特等席。
先週の金曜日まではなかった机。
つまり、このクラスに転校生が来たということを表していた。
それを裏付ける様に、担任の佐藤先生が口を開く。


「おはよう。
今日は皆に嬉しいお知らせがあるぞ!
知っていると思うが転校生がこの2年5組にやってきた!」


うぉー、と盛り上がるクラス。

6月の中旬。
新しいクラスに馴染んで、刺激が足りなかったのか、凄い盛り上がりだ。

どうでもいいけど、もうこれ以上……。
誰かの裏の顔なんて見たくない。

強く握り締めた手に爪が食い込んでいく。
少し痛みが走るけれど、それよりも心の方が痛い。

俯いて目を閉じる。
誰の心の声も入ってこないように。


「じゃあ入ってこい!」


佐藤先生が言葉を放った数秒後。
ガラリと扉の開く音がした。

緊張からか、一瞬にして静まる教室。

コツコツと響くチョークの音が、転校生の足音が。
目を瞑っていても聞こえてきて、何故だか無性に胸が高鳴った。
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