嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「あ、そうだ」

「え?」

「今日俺2時間目が終わったら帰るから」

「そうなの!?」


さっきまで幸せ気分だったのに今の言葉で一気に気持ちが沈んでいく。
落ち込んでいるのが分かったのかキミは私の頭をそっと撫でた。


「病院に行くんだ。
今でも通院しててさ、病気の事で」

「……あっ……そうなんだ……」


キミの言葉にそれ以上何も言えなくなってしまう。


「そんな顔しないでよ。
別にカウンセラーの先生と話すだけだし」

「そうなの?」

「……うん。
まあ、いい人だよ、アンタには敵わないけどね」


にっと笑うキミ。
そのまま私を抱き寄せると自分の腕に閉じ込めた。
道のど真ん中だというのにキミは構わずに抱きしめ続ける。


「ちょっと……正輝!!」

「いつもなら学校を休んで行くけど。
アンタに会いたかったから……少しでもさ……」


ぎゅっと抱きしめられる度に心まで締め付けられるんだ。
私に会う為に、学校に来てくれた。
それが嬉しかったんだ。


「ありがとう!」


外だという事を忘れて。
キミに抱き着きながら笑いかける。


「あー……うん……そんな顔で笑われると……」

「え?」

「キスしたくなる」

「え!?」

「でもしない。
いつ人が通るか分からないこんな場所で。
アンタの可愛い顔を見せたくないから」


キミはそれだけ言うと私の手を引っ張って歩き出した。
少し早歩きで。
追いかけるのが大変なくらい。
でもこれくらいの方が今は丁度いい。

だって。
可笑しいほど高鳴る鼓動を誤魔化せるから。
< 174 / 336 >

この作品をシェア

pagetop