嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「それで……っと、もう着いちゃったみたいだな」
お兄さんの言葉に俯いていた顔を上げれば見慣れた一軒家が目に映った。
それに安心した私は思わず笑顔を零してしまう。
だってお兄さんと一緒に過ごすのは少し気まずかったんだ。
別に緊張をしたという訳ではないけれど。
何でかは分からないけれど。
一緒にいたら駄目。
私の本能がそう告げている様な気がした。
まあ、気のせいだろうけど。
「今日はありがとうございました!」
「いや、俺も楽しかったよ。
これからも正輝の事よろしくな」
優しい声に少し警戒していた心が一気に緩んでいく。
だからか顔を上げてお兄さんの顔を見たんだ。
もう1度ちゃんとお礼が言いたくて。
「あ、こちらこそ……」
でも、それが間違いだったんだ。
開きかけた口から言葉は消えていく。
「(せっかく正輝が1人になったのに何でこんな女が傍にいるんだ)」
お兄さんの声が頭の中で響き渡った。
最初は私への不満だと思った。
私みたいな人間が大切な弟に近付くのが許せないのだと思った。
だって、お兄さんは正輝にとって唯一の理解者で。
正輝を同情しなかった人で……。
キミにとって誰よりも大切な人だもん。
でも……。
「(アイツは1人の方がお似合いだ。
もっと苦しめばいいんだ、アイツの笑った顔なんて見るだけで吐き気がする)」
大切なモノが一気に崩れ落ちるような感覚が心の中で起きた。
「どうした?(この女を俺が取れば正輝は傷つくだろうか?絶望で喋る事すら出来なくて上手くいけば死んでくれるかもしれない)」
優しい顔の裏には醜い顔がある。
それは十分に分かっていた。
それなのに……。
どうしてこんなに胸が苦しいの?
「(消えてしまえばいいんだ正輝なんて)」
未だ頭に響き続ける声。
目を逸らせばいいのに、それすら出来なくて。
目の前が真っ暗になる。
でも意識だけはあって。
頭に響く声も消えてはくれなかった。
「(正輝なんて大嫌い、憎い、消えろ)」
今まで見てきたお兄さんの優しい姿は。
他の人たち同様に作られたものだったんだ。
それを知った今……。
私はキミに何をしてあげられるのだろうか。
「あの……私……失礼します……」
頭を下げて、逃げる様にお兄さんに背を向けた。
「(何だアイツ)」
「え……」
歩き出そうとしたけれど、足が固まったように動かなくなる。
だって、今……。
人の心の声を聞くなんて珍しくないし。
それなりに慣れていたはずだった。
なのにさっき、一瞬だけど。
目を合わせていないのに心の声が聞こえてきた気がしたんだ。
「どうした?」
「あ、いえ、何でも……さよなら」
お兄さんを見る事なくそのまま家へと走り出した。
気のせいだ、そう自分に言い聞かせて。
お兄さんの言葉に俯いていた顔を上げれば見慣れた一軒家が目に映った。
それに安心した私は思わず笑顔を零してしまう。
だってお兄さんと一緒に過ごすのは少し気まずかったんだ。
別に緊張をしたという訳ではないけれど。
何でかは分からないけれど。
一緒にいたら駄目。
私の本能がそう告げている様な気がした。
まあ、気のせいだろうけど。
「今日はありがとうございました!」
「いや、俺も楽しかったよ。
これからも正輝の事よろしくな」
優しい声に少し警戒していた心が一気に緩んでいく。
だからか顔を上げてお兄さんの顔を見たんだ。
もう1度ちゃんとお礼が言いたくて。
「あ、こちらこそ……」
でも、それが間違いだったんだ。
開きかけた口から言葉は消えていく。
「(せっかく正輝が1人になったのに何でこんな女が傍にいるんだ)」
お兄さんの声が頭の中で響き渡った。
最初は私への不満だと思った。
私みたいな人間が大切な弟に近付くのが許せないのだと思った。
だって、お兄さんは正輝にとって唯一の理解者で。
正輝を同情しなかった人で……。
キミにとって誰よりも大切な人だもん。
でも……。
「(アイツは1人の方がお似合いだ。
もっと苦しめばいいんだ、アイツの笑った顔なんて見るだけで吐き気がする)」
大切なモノが一気に崩れ落ちるような感覚が心の中で起きた。
「どうした?(この女を俺が取れば正輝は傷つくだろうか?絶望で喋る事すら出来なくて上手くいけば死んでくれるかもしれない)」
優しい顔の裏には醜い顔がある。
それは十分に分かっていた。
それなのに……。
どうしてこんなに胸が苦しいの?
「(消えてしまえばいいんだ正輝なんて)」
未だ頭に響き続ける声。
目を逸らせばいいのに、それすら出来なくて。
目の前が真っ暗になる。
でも意識だけはあって。
頭に響く声も消えてはくれなかった。
「(正輝なんて大嫌い、憎い、消えろ)」
今まで見てきたお兄さんの優しい姿は。
他の人たち同様に作られたものだったんだ。
それを知った今……。
私はキミに何をしてあげられるのだろうか。
「あの……私……失礼します……」
頭を下げて、逃げる様にお兄さんに背を向けた。
「(何だアイツ)」
「え……」
歩き出そうとしたけれど、足が固まったように動かなくなる。
だって、今……。
人の心の声を聞くなんて珍しくないし。
それなりに慣れていたはずだった。
なのにさっき、一瞬だけど。
目を合わせていないのに心の声が聞こえてきた気がしたんだ。
「どうした?」
「あ、いえ、何でも……さよなら」
お兄さんを見る事なくそのまま家へと走り出した。
気のせいだ、そう自分に言い聞かせて。