嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
誰もいない家に駆けこんで自分の部屋に籠った。
あれから何時間、経ったかは分からない。
でも、震えが止まらないんだ。

正輝の大切な人の本当の顔を知ってしまった。
キミに言うべきなんだろうけれど。


「……言える訳……ないじゃんっ……」


今まで信じていた人が。
心の中では裏切っていたなんて。
そんな事をキミに言える訳がない。

キミにとってお兄さんは……。

考えれば考えるほど分からなくて。
膝を抱えて頭を埋め込んだ。

キミに言っても、言わなくても。
どのみち正輝が傷つきそうで。
確かな答えなんて出てこない。

だからと言って、言わないという選択肢を選んでも。
私の反応で正輝は何かを汲み取るかもしれない。

嘘を見破る事が出来る正輝に隠し事なんて到底出来ないし。
何よりキミに嘘をつきたくない。


「でも、傷つけたくないっ……」


分からない、分からない、分からない。

何度考えたって。
どうしたらいいかなんて見当もつかなくて。

頭を抱えてその場に蹲った。


「あっ……うっ……」


急に息苦しくなって。
頭が割れる様に痛くなる。


「まさ……きっ……」


キミの笑顔が頭に浮かんで、すぐに消えていく。
途切れていく意識の中で何度も何度もキミの名前を呼んだ。
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